日本核磁気共鳴学会

会長のご挨拶

日本核磁気共鳴学会会員の皆様へ

核磁気共鳴(NMR)は、物理、化学、生物学、医学、農学、薬学などの広範な領域で重要な役割を果たす必須の計測法です。高磁場化、高感度化、自動化などの機器開発や技術的発展、それに基づく新たな利用が実現され、近年では、創薬、代謝物動態、新世代電池の解析など、イノベーションに直接つながる領域への利用も広がり、分野の発展は現在も続いています。

日本核磁気共鳴学会は、NMRの研究者に加えて、機器メーカーや試料調製、解析サービスなどを提供する民間企業が一同に会する学会であり、コミュニティの中心的役割を果たしてきました。学会の中心的な活動であるNMR討論会は多様な会員の交流の場となり、分野の継続的な発展と拡大に貢献してきました。本年で第63回となる討論会では、最新の研究成果の発表、最新技術や機器の展示に加えて、若手の顕彰やチュートリアルなど人材育成にも寄与しています。

若手の研究者に対する支援は、学会の基本的な柱の一つです。若手研究者渡航奨励金、NMR討論会における若手ポスター賞、そして進歩賞を設置し、分野の発展に貢献する若手研究者への支援を進めてきましたが、これらを強化することにより、急務となっている次世代人材の育成を促進していきます。分野の認知度のさらなる向上や他のコミュニティとの交流・連携の促進も必要です。学際的な研究や異分野との協調・連携は、分野を活性化させ発展させ、新技術の開発や幅広い分野での課題解決への貢献が期待されます。学会が発行する機関誌は、これら活動において重要な役割を果たします。今期は担当理事を新設し、アクセシビリティの向上を目指して新たな公開方法などを検討し活性化を図ります。

日本のNMRコミュニティの代表として、海外コミュニティとの協力は重要な役割の一つです。NMR討論会での海外研究者の招致による国際交流に加えて、国際会議の日本開催は、日本NMR界の発展と国際的な位置づけを確固たるものにします。国際磁気共鳴会議ISMAR、生体系のICMRBS、アジアオセアニア地区のAPNMRといった代表的な会議の招致と開催では、学会が重要な役割を果たします。

近年、大量のデータや新世代のAIをも活用した技術開発とそれを活用した新規知見の獲得が強く求められています。NMR分野ではこれまでも、NMRスペクトルの処理、化学シフトデータベースの構築・活用、生体高分子の立体構造決定など、データと情報科学の積極的な活用を進めてきましたが、今後は従来とは異なるレベルでデータや情報技術を活用していくことにより、分野を発展させていくことになるでしょう。

変化が激しい中で、学会は日本におけるNMRのコミュニティの中心として会員の活動を支援することで、分野の発展に貢献していきたいと思っています。

2024年4月

日本核磁気共鳴学会
会長 木川 隆則