日本核磁気共鳴学会

会長のご挨拶

日本核磁気共鳴学会会員の皆様へ

私は学部4年だった1988年に初めてNMRに触れ,その後40年弱の間ずっとこの業界にいます.NMRのどんな魅力が私をこの業界にとどめているのかを考えたときに,思い出す原風景は不思議とNMRを操作する人のそばに座っているときのものです.

学部4年時には,昨年本会の功労者表彰を受けられた河合剛太さんの隣に座って,その後はメーカーのデモルームでMarkus Wälchliさんの隣に座って,さらに理研に就職してすぐに渡英した際にはDaniel Nietlispachさん(現Cambridge大学教授)の隣に座って,彼らがオペレーションするのを見ていました.その時の実験は基本的に新しいもので,往々にして最初はうまくいきません.うまくいかない理由の可能性はいくらでもありました.そもそも作ったパルスプログラムにバグがあったり,パルスやディレイの設定に誤りがあったり,NMR装置に不具合があったり,実験そのものはうまくいっているのだが用いている試料の物性が妨げていたり,という感じでした.私は隣で遠慮がちに意見を言い,うまくいかない原因の仮説を裏付ける実験を提案して,彼らと議論し,実験をしました.そして最後にはすべてが解決する(もしくは,この試料ではうまくいかないことに確信できる)というこのプロセスが私にはとても魅力的だったのだろうと思います(自分がオペレーションしていない!ということが重要だったのでしょうね).いずれにせよ,NMR実験には生物学実験のようなあいまいさがなく,うまくいかないのには必ずその理由があり,それが克服できれば必ずうまくいくというクリアーさがあるという点に私は強く惹かれているのでしょう.

ここまで長々と自分のことを書いてしまいましたが,核磁気共鳴学会の会員の皆様も,それぞれ独自のNMRに対する興味,思い入れ,こだわり,記憶,をお持ちで,本会に集まっておられると私は思います.たまたま入った研究室や企業がNMR関連の研究・業務をやっていたということもあるでしょうが,その場合でも自分なりの興味の持ちようがおありではないかと思います.そして,(非常に漠然とした言い方で恐縮ですが)NMR討論会をはじめとする,核磁気共鳴学会が主催・共催・協賛・後援する様々なイベントの中で,会員の皆様のそれぞれの興味や思い入れが深まり,他の会員と共有されていく(と同時に,世界に発信できるような最先端の研究も生まれていく),そしてそれが次の世代に受け継がれていく,というかたちが,私が思う本学会の理想的な姿です.

2年の任期の中で,少しでもその姿に近づけるようにしたいと思います.ご意見,ご提案がありましたらいつでも大歓迎です.どうぞよろしくお願いいたします.

2026年6月

日本核磁気共鳴学会
会長 伊藤 隆