チュートリアルコース

チュートリアルコース

本コースについて

好評を得ているチュートリアルコースを、本年も討論会に先立ち開催します。
今年度は4名の先生方にレビューして頂く予定です。
学生・若手研究者を主な対象としていますが、一般の方の参加も歓迎します。参加費は無料です。

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概要

会期 2022年11月7日(月) 12:30〜18:30(受付 12:00〜)
会場 高知県立県民文化ホール オレンジホール
(〒780-0870 高知県高知市本町4丁目3-30)
講師 池上 貴久 先生 (横浜市立大学)
武田 和行 先生 (京都大学)
拝師 智之 先生 (国際医療福祉大学)
寺尾 武彦 先生 (京都大学)

プログラム

時間 プログラム内容
12:30〜14:00
1. 池上 貴久 先生 (横浜市立大学)
「AX3スピン系は訳分からないけど、やはり「メチル基」様様」
溶液 NMR に限ったことではないが、何かサンプルの 1H, 13C-NMR を測定すると、溶媒のピークを除いて真っ先に目に飛び込んでくるのはメチル基のピークではないだろうか?シャープで一際高くそびえ立つピークを見ると、少なくともサンプルが溶けていたことにホッと一安心するのは筆者だけではなかろう。これは低分子だけでなく高分子の場合でも同じで、特に蛋白 NMR の分野では分子量が5万を超える辺りから、これまでの 1H/15N アミド基ではなく、1H/13C メチル基が主役に躍り出た。今では試料作りも測定法もかなりルーチン化されているが、ふと、「何故メチル基はそれほど感度が高く、1 MDa レベルでも観測可能なのか?」という点が気になることがある。「それはもちろん 1H ピークが3つも重なっているからだよ」という答が速攻で返ってきそうである。少し高度になると「それは “メチル TROSY ” のせいだよ」という答。それでは 「何故その TROSY は HMQC であって HSQC ではないの?」「メチル TROSY があるなら、メチレン TROSY もあってもいいよね?」「メチル基以外を重水素化するのは高くつくから軽水素でいいよね?」など、突き詰めていくと上手く説明できないことも多いような気がする。今回はこれを機にこれらの疑問点を解決したい。また、普通は3つの 1H の化学シフトが同じ場合は、その間のJカップリングは表面的には効かない。そのため、Ix から IxIzIz などは生じないはずであるが、メチル基という木ではこの禁断の果実がいきなり生まれる。その仕組みについても触れたい。
14:10〜15:40
2. 武田 和行 先生 (京都大学)
「Qを上げると感度が良くなるのではなく、感度を良くするとQが上がるんです」
NMRを愛で楽しんでいると、日々いろいろな疑問を抱く。そのうち以下について解説する:
・プローブの共振回路のQ値が高いと感度がよい!?
これは微妙である。例えばクライオプローブはQ値が高くて、感度が通常のプローブに比べて格段に高い。だが感度が良い理由は「Q値が高いから」ではなく、回路が冷やされて熱雑音が小さくなるから、である。回路が冷えると電気抵抗が小さくなる。その「結果」、Q値が高くなる。つまりQ値が高くなるのは結果であって、原因ではない。
以前サッカー日本代表選手(誰かは忘れた)のインタビューで、「強いから勝つんじゃない。勝った方が強いんです。」という印象的なコメントを聞いたことがある。ちょっとロジックが似ている。
・テンソルって何?
核スピン相互作用を語るときに欠かせないのがテンソル。「テンソル」という用語を調べてみると、「回転にともないある規則にしたがって変化する量」、とか説明されていたりする。最近、「n階のテンソルとは、n個のベクトルを受け取って、数値を返す線形マシンである」旨の説明に出会った。これは実に面白い。紹介したい。
・磁気なのに電気、これ如何に?
核「磁気」共鳴でお馴染みの四極子相互作用は「電気」相互作用である。何か不思議だ。解説する。
15:50〜16:50
3. 拝師 智之 先生 (国際医療福祉大学)
「計測手法としてのMRIをどのように使っていくか」
MRIは1973年にP. Lauterbur博士によって発見され、その後は1H-MRIとして、医療分野で目覚ましい発展を遂げた。世の中のほぼすべてのMRIは医療用であり、生体中の細胞内液、外液に含まれる1Hプロトン(T1緩和時間〜1秒、T2緩和時間〜100ms)のみを対象とした、緩和時間を強調した1H核磁化分布の計測と言い切ってもよいであろう。
MRIの計測は、GX,GY,GZの三軸に直交した勾配磁場「mT/m」(=医療業界では傾斜磁場)によって空間的に異なる歳差運動周波数を与えている、とされているが、本講義では、空間周波数空間(k空間)と、時間軸に沿って巧妙に併せこまれたMRI信号の関係を、初学者のために解説したい。この位置情報のエンコードに、Repetition時間毎の、冒頭の励起パルス(例えば90°)後から勾配磁場の駆動に数msが必ず必要であり、足の速い横磁化は掴まえられず可視化できないし、頑張って掴まえても緩和時間情報(≒被写体の特徴)が失われた単なる分布像になってしまう。
MRIは核磁化の分布を計測する手法なのでNMR信号は細切れにされる方向にあり、いつでも感度が不足している。一方で、時間変化する場合や、in-vivo、in-situ計測であるからこそ重要性が見いだせる。人体以外のMRI計測を行う場合で、特には、静磁場強度B0[Tesla]とRFコイルを自作することとその形状・大きさの選択がキーファクターとなる。水分の少ない試料での1H-MRI、多核として7Liおよび23Na-MRIの実例を挙げて、MRIの適用可能性を考える。
17:00〜18:30
4. 寺尾 武彦 先生 (京都大学)
「NMRを創った人たち:第1話 夜明け前 [2] Isidor I. Rabi, 分子線磁気共鳴法の開発」
教科書では、長年にわたって積み重ねられた多数の研究成果が系統的に整理され、簡潔に淡々と記述されていて、学問が創られた背景にある含蓄に富んだ話はすっかり削ぎ落とされている。しかし、未踏の地に道を切り開いた開拓者たちが歴史的な研究に取り掛かったきっかけや鍵となるアイデアの着想の経緯、あるいは回り道やつまずきなど創造の過程で辿った軌跡を知ることは、我々にとって間違いなく貴重な財産になるだろう。そのためには、研究を行なった本人の育った環境や受けた教育、研究が行なわれた時代背景、研究環境、周辺の人々の関わりや反応など、学問が創られるに至った状況を多面的に知ることも極めて重要である。本講演では、時代を画した研究を行った人物にスポットを当てて、できる限りその研究が成功するに至った道のりや、研究が行われた現場を、様々な文脈において多面的に蘇らせる。うまくいけば、おそらくはその人物の人間性や生き方に根ざしているであろう、研究に対する姿勢やものの考え方、奥深い想いが浮かび上がってくるかも知れない。その試みを通して、研究者として歩み出した若い人たちに、“ 科学する” とはどういうことなのかを物語全体から感じ取ってもらえれることを願っている。今回は、BlochとPurcellに先立って分子線でNMRを実現したRabiの人生後半の物語を話す予定である。